ガーシュウィン音楽の魅力

クラシックとジャズの融合

AAFC例会資料

2016/04/24

担当 : 高橋 敏郎

 

 ジョージ・ガーシュウィン(1898-1937)とは

 音楽的趣味豊かなユダヤ系ロシア移民の子として米ニューヨーク、ブルックリンで出生。
 幼少時からクラシックを含むピアノ演奏を学ぶ。ハイスクールを中退、NYティン・パン・アレーにあったポピュラー音楽専門の楽譜屋で働く傍ら作曲を始める。

  1919年に最初の転機が訪れ、彼の作曲になる「スワニー」が当時ポピュラー音楽界の人気歌手アル・ジョルスンによって取り上げられて、全米で楽譜、レコード夫々数百万枚という大ヒットとなる。

 続いて彼の人気と才能に注目した人気ジャズバンドのリーダー、ポール・ホワイトマンの委嘱により1924年 ピアノとジャズバンドのためのシンフォニック・ジャズ「ラプソディー・イン・ブルー」を作曲。これが大成功を収め、クラシック音楽界にも 彼の名が広がったが、これこそ世界で初めてジャズとクラシックの融合を意図した作品といえる。ただ、ここでいうジャズが真の意味で黒人による本格的ジャズだったかといえば、必ずしもそうとはいえない点もあったが、少なくともガーシュウィンの意図したものは、そうしたジャズとの融合によるニューミュージックの創造であったことは確かであろう。 

 翌25年には、ニューヨーク交響楽団(後のNYフィル)の名指揮者ウォルター・ダムロッシュの委嘱で「ピアノ協奏曲へ調」を作曲し、これも好評、28年には再びダムロッシュの委嘱により「パリのアメリカ人」を作曲した。この曲は絵も好きだったガーシュウィンが偶々旅行したパリの印象を曲にしたものだった。

 その間、映画音楽とともにミュージカルの分野にも注力し、ミュージカル部門では全米初のピュリツアー賞受賞作品となった「君がため歌わん」(31)以下、多くの作品を残した。

 また本格的オペラへの野心も強く、34年に南部の黒人たちを主人公にしたオペラ「ポーギーとベス」を発表。自身フォーク・オペラと名付ける。第一幕、短い序奏の直ぐあとに歌われる黒人霊歌に基づく子守唄「サマータイム」は特に有名で、カヴァーだけでも3千種近くあるが、ここでは 以下の通り数種取り上げて比較してみたい。
 その3年後の37年に過労と脳腫瘍で亡くなるが、最後の瞬間までハリウッドで映画音楽の作曲に没頭していたといわれる。享年弱冠38歳だった。

1.シンフォニック・ジャズ「ラプソディー・イン・ブルー」

 当時アメリカのジャズ王といわれたポール・ホワイトマンの委嘱により1924年に作曲。ただしオーケストレーションは「グランド・キャニオン」などの作曲家、グローフェがアレンジした。本曲は一種のピアノ協奏曲であるが、初演は同年2月12日、ニューヨークのエオリアン・ホールで、作曲者自身がピアノを受持ち、ホワイトマン指揮で彼のバンドが演奏。会場には超一流の音楽家、ラフマニノフ、ダムロッシュ、ストコフスキーほか、一流評論家が勢揃いした。まさにジャズ語法をベースにしたクラシック音楽というアメリカ特有の音楽が初めて鳴り響いた瞬間でもあった。こうした傾向は 次の「ピアノ協奏曲」「パリのアメリカ人」など自身の作品にも反映されているが、やがて次世代のアメリカを代表する作曲家アーロン・コープランド、レナード・バーンスタイン、アンドレ・プレヴィンなどに引き継がれていった。

a.ジョージ・ガーシュウィン(1925年製ピアノ・ロール), コロムビア・ジャズ・バンド、
指揮 マイケル・ティルソン・トーマス (録音1976年6月) (所要時間13' 43)

  今回お聴きいただくのは、1925年 ガーシュウィン自身によるピアノ・ロール(自動ピアノに取り付けて使用する演奏データが穿孔された紙製のロール)の記録に重ね合わせて、1976年に同じアメリカ生まれの指揮者ティルソン=トーマスが新たに編成されたジャズバンドを率いて演奏した珍品。オリジナル・ロールで弾かれる本録音用の自動ピアノには よく調律された最新のピアノが使用されているので少なくとも音響上の違和感は感じられない。また本録音のバックにはグローフェのオーケストレーションによる大編成の管弦楽ではなく、オリジナル・バージョンのジャズ・バンドが使われているのもユニークである。

b.レナート・バーンスタイン(ピアノ&指揮)ロス・アンジェルスPO (録音1983) (所要時間 17'08)

c.アンドレ・プレヴィン(ピアノ&指揮)ピッツバーグSO(録音1984)(所要時間13'46)

これらは時間があれば一部でも聴いてみたい。

2.フォーク・オペラ「ポーギーとベス」

 ガーシュウィンによる永年の念願だったヨーロッパの真似事ではないアメリカ独自のオペラ「ポーギーとベス」が完成したのは1935年、初演も同年ボストンで行なわれた。原作はデュポーズ・ヘイワードのベストセラー小説「ポーギー」。台本はヘイワード自身とジョージの兄アイラ・ガーシュウィンによる合作。出演者は全て黒人で、アメリカ南部の町チャールストンの”なまず横町”と呼ばれた貧民窟が舞台。足の悪い主人公ポーギーのならず者の情婦ベスに対する献身的な愛がモティーフとなっているが、これもアメリカで生まれたジャズやミュージカルとヨーロッパ生まれのオペラの融合的な作品。またこのオペラには爾来ジャズのスタンダード・ナンバーとなった幾多の名曲が作品全体に鏤められている。

例えば、
子守唄「サマータイム(Summertime)」
「うちの人は逝ってしまった(My Man's Gone Now)」
「ベス、お前は俺のもの Bess,You Is My Woman Now)」
「アイ・ラヴ・ユー、ポーギー(I Love You, Porgy)」
「おお主よ、出発します(O Lord, I'm On )」などである。

A. ここでは まず短い序奏に続いて、このオペラの舞台、南部の町チャールストンの街角で若い母親クララが赤子をあやしながら歌う名曲、子守唄「サマータイム」までの短いパートをこのオペラの初演と同じオリジナル・キャストによる珍しい録音と比較的新しい録音で聴いてみたい。

a. アレクサンダー・スモーレンズ指揮 デッカ交響楽団
「サマータイム」を歌うのは アン・ブラウン(ソプラノ)(録音1940) (所要時間 3'34)

b. ズービン・メータ指揮 ニューヨーク・フィル
「サマータイム」は ロバータ・アレクザンダー(ソプラノ)(録音1990) テルデック
  (所要時間 3'24)

c. ニコラウス・アルノンクール指揮 ヨーロッパ室内楽団
「サマータイム」は ビビアナ・ヌヲビロ(ソプラノ)(録音2009) ソニー
 (所要時間 3'59)

B. 次に 名曲「サマータイム」だけを取り上げて幾つかの有名な録音で比較してみたい。
歌詞は作者ヘイワードによる下記のごとき内容。(拙訳による)

「夏になれば 楽になる。魚は跳ねて 綿の木伸びる。父さん金持ち、母さん綺麗。だから泣かずに寝んねしな。
  ある朝 お前は立ち上がって歌う。翼を広げ飛んでいけ。朝がくるまで安心してお休み。父さん母さん傍に居る」

超有名曲だけに「テネシー・ワルツ」や「スターダスト」とともにカヴァー演奏が多い。少なくとも3,000を越えると云われる。
その中で 今回は下記の幾つかを時間の許す限り お聴きき願いたい。

a. ビリー・ホリデイ(1915-59)
ボルチモア生れ。不世出のジャズ・シンガー。33年、ベニー・グッドマンと初録音。34年,初映画出演。
黒人リンチをテーマにした「奇妙な果実」(39)を歌って全米の話題となる。晩年は麻薬でぼろぼろになって死去。(本曲録音1936)

b.エラ・フィッジェラルド(1918-96)
南部ヴァージニア生れ。34年、ハーレム、アポロ劇場でのコンテストに優勝、チック・ウェブ・バンドの専属となる。圧倒的な声量と豊かな表現力により史上最高の女性ジャズ・シンガーと讃えられた。
「ダウンビート」誌人気投票ではトップを20回以上獲得。(本曲録音1957 w/ルイ・アームストロング&管弦楽団)

c.サラ・ヴォーン(1924-90)
NJニューアーク生れ。子供のころから教会で唱い、オルガン、ピアノを習う。アポロ劇場でのコンテストに入賞後、アール・ハインズ楽団に加わる。「ダウンビート」人気投票では47年以降連続5回トップとなり、以降80年まで息の長い歌手活動を続けた。ビリー、エラとともに女性ジャズ・シンガー、ビッグ3の一人。(本曲録音1951)

d.ヘレン・メリル(1930-)
ニューヨーク生れ。都会的な美人ジャズ・シンガー。54年以降、人気トランぺッター、C・ブラウンと度々共演。「ニューヨークのため息」と評され、度々日本を訪れ、独特のハスキーヴォイスで日本でも抜群の人気があった。(録音1957)

e. ジャンヌ・リー(1939-2000)
ニューヨーク生れの女性ジャズ・シンガー。作詞・作曲もし、カーラ・ブレイ、マル・ウオルドロンなど多くのミュージシャンとのコラボレーションでも著名。(本曲録音 1961)

f. バーバラ・ヘンドリックス(1948-)
米アーカンソー生れ。メゾ・ソプラノ、ジュリアード音楽院卒、メトを始め、世界オペラ場で活躍したが、ジャズや黒人霊歌でも著名。また難民支援活動にも熱心な人権活動家。(本曲録音1981 w/ラベック姉妹と)

g.ジャニス・ジョプリン(1943-70)
ブルース/ロック・シンガー。その烈しい荒削りさによって67年、モンタレー・ロック・フェステイバルで一躍脚光を浴びるが、その後,酒と麻薬により破滅、27歳の短い生涯を終えた。彼女の壮烈な人生は映画「ジャニス」(75)や「ローズ」(79)によって紹介。(本曲録音1968)

 以 上

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