AAFC

第18回 往年の女流名ヴァイオリニストの演奏を聴く

ヨハンナ・マルツィ( ハンガリー) (全4回)
(その4) 放送局録音及びライブ録音 2(1959~1972)
(34~48歳)

2016年7月3日

分科会資料
担当:霜鳥 晃

 

Johanna Martzy(1924.10-1979.8 54y) 

マルツィは1957-58年のシーズンにアメリカ・ツアーを敢行する。
ニューヨーク・デビューでは、クリュイタンス、ベイヌム、バーンスタイン等と共演、62-63年にはロサンジェルスでモントゥと共演し、アメリカを席捲してしまった。

1959年、マルツィの名が世界中の新聞記事の見出しとなる出来事が起こる。
エディンバラ音楽祭で、チェコ・フィルが彼女との共演を拒否したのだ。
理由は彼女とその夫が、1944年のホルティ提督のハンガリーファシスト政権の協力者だったというものだった。皮肉にも、夫チレリーとは離婚したばかりであった。事実、マルツィの唯一の政治的スタンスは純粋な反共産主義というもので、その抗議が認められ、イッセルシュテットの指揮でロイヤル・フィルとの共演がなされた。

1960年(35歳)、マルツィはダニエル・チューディ(前出)と再婚し、後に一人娘を授かる。マルツィは60年代も常に第一線で演奏し続けたが、裕福な夫を持ち経済的モチベーションを失った彼女をエージェントが押さなくなったり、遅くに母となったことで子育てに奔走する必要もあり、次第に人気ヴァイオリニストの地位から去ってしまう。

1969年(44歳)深刻なB型肝炎に患わっていることが判明するが、そのような状況下でも、彼女は1976年(51歳)まで人前で演奏し続けた。

1978年、夫チューディが亡くなる。
1979年8月、チューリヒの病院で54歳の生涯を閉じる。癌であった。

1.J.S.バッハ           
     ヴァイオリン協奏曲 第2番 ホ長調 BWV1042  (Live)・・・・・(19:51)

バッハの作品の中でも最も明るい音楽の一つ。このような明るさと主題の印象的な明快さ、とりわけ第2楽章の心に染入る美しさのため、昔から広く愛され続けている。

第1楽章   Allegro      ホ長調     2/2      (9:16)
第2楽章   Adagio      嬰ハ短調   3/4      (7: 34)   
第3楽章   Allegro assai  ホ長調     3/8      (3:01)

指揮:オイゲン・ヨッフム  バイエルン放送交響楽団
録音:1959年4月 (34歳) (バイエルン放送局所蔵)
 

2.ベートーヴェン
     ピアノ三重奏曲 第3番 ハ短調 op.1-3 ・・・・・・・・・・・(29:39)

ベートーヴェンはピアノ三重奏曲を初期から中期、後期にわたり全11曲作曲しているが、短調は本曲のみ。本曲はベートーヴェン24歳ごろの作品。
各楽章にわたり印象的なメロディ(主題)に溢れているが、最終楽章の躍動感のある主題はことさら印象的である。
第7番「大公」をはじめ、第5番「幽霊」、第4番「町の歌」、第11番「カカドゥ変奏曲」と並んでよく演奏される。

第1楽章  Allegro con brio             ハ短調 3/4 ソナタ形式   (10:48)
第2楽章  Andante cantabile con variazione  変ホ長調 2/4 主題と変奏 (8:09)
第3楽章  Menuetto (Quasi allegro)        ハ短調 3/4           (3:57)
第4楽章  Finale (Prestissimo)           ハ短調  2/2  ソナタ形式 (6:45)

ピアノ: イストヴァン・ハイデュ
チェロ: パウル・サボ
録 音: 1969年11月 (45歳) (WDRケルン所蔵)
 

3.モーツァルト
     ヴァイオリン・ソナタ 第40番 変ロ長調 K.454  ・・・・・ (22:56)

モーツァルト28歳の時の作品。本40番、41番変ホ長調、42番イ長調を三大ソナタとも言う。
従来の「ヴァイオリン伴奏つきピアノ・ソナタ」の域から一段と飛躍し、協奏的スタイルになっている。
急‐緩―急 の三楽章よりなる。

第1楽章  Largo(序奏) - Allegro 変ロ長調  4/4  ソナタ形式   (7:40)
第2楽章  Andante          変ホ長調  3/4  ソナタ形式   (8:08)
第3楽章  Allegrette          変ロ長調  2/2  ロンド形式   (7:03)  

ピアノ:ジャン・アントニエッティ 
録 音:1962年3月 (37歳)  (RIAS Berlin 所蔵)

4.ブラームス
      ヴァイオリン・ソナタ 第1番 ト長調 op.78 「雨の歌」 ・・・・・・・・ (28:12)

ブラームスはヴァイオリン・ソナタを3曲遺しているが、どれもベートーヴェン以降のこの分野での傑作となっている。

第1番は1879年、ブラームス46歳、円熟期の作品である。(因みに第2番は1886年、 第3番は1888年)。オーストリアのヴェルター湖畔にあるベルチャッハで作曲された。
前年の1878年にはヴァイオリン協奏曲ニ長調が同じベルチャッハで作曲されており、姉妹曲といってよく、共に親しみやすく叙情的である。

「雨の歌」ソナタと呼ばれるのは、第3楽章の冒頭の主題に数年前に作曲された歌曲《雨の歌 op.59-3》を利用しているためである。この旋律は第1楽章や第2楽章の主題動機とも関連しており、全曲の有機的統一が図られている。

初演 1879年夏(vn)ヨアヒム(p)ブラームス
本演奏は現存するマルツィの最後の録音(?)と思われ、そうだとすれば、マルツィの「白鳥の歌」に相応しい演奏ではないかと思われる。

第1楽章 Vivace ma non troppo  ト長調    6/4  ソナタ形式  (11:10)
第2楽章 Adagio            変ホ長調  2/4  3部形式   (8:12)
第3楽章 Allegro molto moderato  ト短調    4/4  ロンド形式   (8:50)
(ABACA+ coda)

ピアノ: イストヴァン・ハイデュ
録 音:  1972年11月 (48歳)
(Radio DRS スイス所蔵)                        

アンコール小品                                            

クライスラー作曲 ベートーヴェンの主題によるロンディーノ(小さなロンド)
1966年4月 (41歳) (p)アントニエッティ  (RIAS Berlin所蔵)

以上